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HSBCが見たベトナムの経済

ベトナムの財政赤字問題と
必要な行財政改革 Vol.18


5月の各種データを見る限り、ベトナム経済は第1四半期に経験した一時的な鈍化状態から回復過程にあります。弊行では2016年の実質GDP成長率見通しを6.3%として変えていません。新指導部は今年のGDP成長率目標を6.7%としていますが、目標達成は困難と見ています。外需が昨年に比べて伸び悩んでいるため、目標を達成するには内需、特に投資を大幅に拡大する必要があるでしょう。

第1四半期の落ち込みにもかかわらず高いGDP成長率目標が維持された点を考慮すると、指導部の政策スタンスは「成長重視」に傾斜し始めていると考えられます。従って、ベトナム国家銀行(中央銀行)は今後、銀行融資の加速を許容する可能性があります。銀行貸出残高の伸び率は4月時点で前年比17.3%でしたが、2016年後半にかけて20%近くまで加速するでしょう。

ここで懸念されるのは、マクロの健全性が比較的脆弱な状況で、景気刺激策の規模が大きいほど、リスクが高まっていくことです。

財政赤字と公的債務

ベトナム政府の財政赤字はこれらマクロリスクのひとつです。ベトナム政府の財政赤字拡大の主な原因は歳入の減少です。歳入減少には2つの要因が見られます。ひとつは世界的な原油安の影響による石油・ガスセクターからの歳入減、もうひとつは石油製品以外の税収減です。

国際通貨基金(IMF)によると、ベトナムは税の効率性は他のASEAN諸国と比べてかなり優位ですが、その税収基盤が浸食されているように見えます。ASEAN経済共同体(AEC)で加盟国間の関税が撤廃されていく中、税基盤の強化や税収の効果向上への努力が欠如すると、石油製品以外の税収は厳しい状況に直面し続けると思われます。

弊行の見通しではベトナムの政府債務残高(GDP比)は、2015年の59.6%から2016年には63.3%に増加。公的債務の悪化はインフレ率低下に伴う名目GDP成長率の減少や、ドン安に伴う対外債務拡大に起因しています。投資家は政府が公的債務の上限である65%を引き上げる可能性を懸念しているようですが、各政府機関は支出の縮小と政府保証債の抑制・使用を通じて、上限越えを避けられると考えているようです。

HSBCは公的債務の上限を定める「65%ルール」をしっかり守ることは重要だと考えます。「65%ルール」は財政規律を促し、公的部門の支出増やそれに伴う金利上昇によって民間投資のクラウディング・アウトを防ぎます。また、ベトナムの競争力や生産力の向上には、インフラ投資に向けた支出の再配分も重要です。

特に他の新興アジア諸国と比べると、ベトナムの財政は危険な状態。支出の増加はGDP成長率の目標達成に寄与しますが、これらのコストの増加は将来的に財政リスクを高めるでしょう。

行財政改革の必要性

ベトナムは中期的に、以下の課題を中心に、行財政改革を実施すべきでしょう。

①歳入基盤の拡大。脱税の防止策や脱税企業名の公開、VAT還付手続きの簡素化などの行政上の措置は、多様な分野の関税の削減・撤廃による影響を減少させます。

②公的支出の効果向上。公共部門の全面的な給与の合理化、採用中止などよりも、効率性を強化した公務員制度の総合的な改革をすれば、公共投資、社会的支出、特に教育分野での拡大につながると期待されます。

③国際会計基準に合わせた会計制度の調整。これにより国際比較が可能となります。財政面でのコミュニケーションの改善は、リスク面で市場に好感を与え、ベトナム全体で説明責任や管理能力の向上につながるでしょう。

うれしいことに、政府は既にこうした改革に取り組んでいます。例えば、2017年にベトナムは新たな財務報告基準を導入し、予算外の資本支出は国家予算に組み入れられる予定です。

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