総力特集

Feature


2015年のベトナムはGDP成長率が%と絶好調。内需は堅調、海外投資は増加、自由貿易化も促進した。
それでは、2016年はどうなるのか?各界の識者が2015年の総括と2016年の展望を予測する。そして…日系企業への影響とは?

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TPPもAECも期待はほどほどに
真っ当なビジネスが本来の近道

三菱自動車工業のヴィナ・スター・モーターズを初め、JETROの海外投資アドバイザー、JICA(国際協力機構)専門家、計画投資省のアドバイザーなど、ベトナムに20年以上関わってきた市川氏。ベトナム経済の知恵者が語る。

安定した「良」の経済

I.B.C Vietnam Co., Ltd
Chairman & CEO

市川 匡四郎 氏

「昨年のベトナム経済の成績は、優・良・可の中で『良』だと思います。優とは呼べません」

20年以上ベトナム経済の成長を観察してきた市川氏。1995年頃のGDP成長率は8%~10%だったが、それは当時のベトナムの経済規模が小さかったから。その成長率を維持してきたものの、この数年で5~6%に落ち着いたのは、逆に経済規模が大きくなった証だそうだ。つまり、優でも可でもなく良。

ただ、2015年のCPI(消費者物価指数)の上昇率はゼロかマイナスだろうから、むしろデフレ状態。それには様々な原因が考えられるが、大きなものは燃料価格の世界的な大幅下落だ。ベトナムのガソリン価格は1ℓで2万3000VNDのときもあったが、昨年は1万5000VND前後で推移。それに加えて、電力料金の上昇はさほどなかった。つまり、経済的には安定傾向にあるという。

FDI(外国直接投資)に関しては、新規投資の登録の推移に波があるが、実行額は安定している。貿易では昨年30億USD以上の赤字となりそうだが、主な理由は設備や機械などの輸入にあり、生産活動が始まれば輸出にもつながる。特に心配する必要ないと市川氏は見ている。

WTOとTPPの比較

出典:統計総局、外国投資局 ※認可額は増資を含む

「昨年からよく耳にするのがTPPです。ベトナムの企業は楽観的で、ベトナムの人々は熱い期待を寄せているようですが、少々過剰になっているのではないかと思います」

2007年にベトナムがWTOに加盟するときにも、今と同じ現象が起こっていたという。関税が撤廃されると、ベトナム製品の輸出が増大すると多くの人が考えていた。WTOの効果はそれなりにはあったが、今も昔も根本的な課題はベトナム製品の品質向上にあるという。

TPPにより、ベトナムの大きな貿易相手国になるのはアメリカだ。その理由はベトナム最大の競争国である中国とタイがTPPに入っていないからで、特に繊維の輸出はベトナムに有利に働く。また、原産地規則により、今までのような中国やインドネシアなどからの繊維や靴の材料の輸入は、大きな優位点にはならない。こうしたチャンスをとらえて上手く活用すれば、国内産業は盛んになるはずだ。

ただし逆方向から見ると、中国企業がベトナムに進出し、他国から輸入された原材料を使ってベトナムで製造する可能性も出てくる。既に始まっているのだが、この進出が拡大すると、国内産業が伸び悩むことになる。

「TPPが実際に発効するのは2017年半ばぐらいでしょう。そこまでの1年半の間で、ベトナムは冷静に準備をすべきだと思います」

TPPによる効果は、国内の経済改革と市川氏は語る。TPP加盟により外圧がかかるので、ベトナム政府は経済改革を迫られる。具体的には法律、ビジネス環境、貿易手続きなどの明確性や透明性の確保で、なお一層、国有企業の改革も求められてくるという。

「AECは昨年12月に発効しましたが、実際のところはどうなるかわかりません。理屈ではASEAN域内でヒト・モノ・カネの移動が自由になっても、ヒトに関してだけでも民族的な問題もあり、簡単には動かないと思います。AECの効果は今年1年をかけて見えてくるでしょう」

それでも全体的に見れば、世界的に大きな変化がない限り、2016年のベトナムは投資も貿易も伸び続けていき、景気も良くなるだろうとのことだ。

中小企業の伸ばす政策を

出典:ベトナム自動車工業会

2018年までに完成乗用車の輸入関税が撤廃される。コスト的に試算すると、関税が0%になれば、国内組立生産車の価格が相対的に20%高くなるとも言われる。これはベトナムで自動車生産拠点を擁する日系自動車メーカーにとって、深刻な課題となっている。

「一方、日本からの投資は、日系大手企業はほぼベトナムに来ているため、これからは増築、または拡大するしかなく、新規の進出はほとんどないと思います。ただし、これらの大手企業に部品を供給する中小企業の進出は増えていくでしょう」

進出してくる日系中小企業の大きな課題は、日系、外資系、ローカルを含めた企業間の厳しい競争であり、大手企業が望む単価のプレッシャーも高そうだ。

一方のベトナムの中小企業は、2000年に規制緩和が実施されて以降に生まれた企業がほとんどで、実はまだ15年の歴史しかない。政府などからの支援が必要な段階であり、計画投資省は日本の協力を得ながら中小企業を支援する法律案を作成している。

「特にドイモイ市場で育った40歳以下の起業家や経営者は、公的な援助を受けずに自力で成し遂げようと頑張る人が多い。こうした人をつぶさない支援や援助の計画を政府が立ててほしいですね」

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