総力特集

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「ベトナムの和食」が新たなフェイズに入った。和食に馴染みつつあるベトナム人の内なるニーズ。それを汲み取った経営者は先を読んで展開する。起こったのが「低価格化」と「高品質化」だ。日本人客は既に、傍流的な存在となっている。

 

 

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2004年に1号店を開店して「日本焼肉」のブームを起こした「焼肉浦江亭」。現在ホーチミン市に7店舗を展開する同社が昨年12月、寿司専門店の「寿司浦江亭」をオープンし、周囲を驚かせた。きっかけは女性社長のある思いだった。

 

 

大事なのは「安くて安全」

ホーチミン市7区の大型複合施設「Crescent Mall」に併設された寿司浦江亭は、開店から半年がたった今でもお客が増え続けている。その理由は握り寿司2貫で2万VND前後という価格帯と味、ネタの鮮度だろう。約140席ある店内を占めるのは、カップルから家族連れまで幅広い層のベトナム人。社長のMs. Anhがきっかけを語る。

「ベトナム人は刺身などの生ものに気を使います。新鮮かどうかを確認したりしてね。その一方では、安い路上の屋台寿司が流行した。お腹を壊す不安を考えたら、私なら食べるのはあり得ない話です。ならば、安くて、安全で、美味しい生ものを提供すればいい。誰かができないなら、私が出店しようと思いました」

このアイデアを創業者である日本人の会長と話し、同意を得たのが昨年12月。その年の暮れには1号店をオープンした。こだわったのは「食の安全」と「誰もが食べられる価格」だ。

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和牛にぎり

3ペッパーソフトシェルロール

4回転寿司もある店内

「日本に行かなくて日本と同じ味をベトナム人に提供したい」というコンセプトは焼肉浦江亭と同じだが、価格については焼肉店以上に努力をしたようだ。その結果、客単価は焼肉店のほぼ半分という。

「ベトナム人も美味しいものを選ぶようになってきていますが、高いものにはなかなか手を出さない。ビジネスとしても、値段を安くしなければ成功できないと思いました」

焼肉浦江亭で使う肉はアメリカからの輸入。1年分をまとめて契約して価格を安定させ、3ヶ月単位でコンテナで運ぶ。そのため、メニューは基本的に1年に一度しか変えず、それはしっかりと製本された分厚いメニューからも想像できる。使用する肉は1ヶ月に約40トンで、ほとんど在庫が残らないという。

こうした大量仕入れと在庫管理のノウハウが寿司浦江亭にも引き継がれており、サーモンはノルウェー、マグロはインドネシアなど、魚介類は当初全て輸入品。特にMs. Anhが「私も大好きなんです」と語るサーモンはベトナム人に大人気で、600㎏が売れた月もあるという。

ただ、国産品を使わないというわけではなく、刺身などの生鮮品に関する経験が浅いこともあって、ベトナムの魚を調査しているという。今後は完全にベトナム産にシフトさせていく予定だ。

来年までに10店舗へ

和食ビジネスに身を置いて10年以上の彼女が最近感じるのは、「接客やサービスへの評価の厳しさ」だという。昔は料理の味覚に満足を求めていたベトナム人が、今では接客・サービスにうるさくなっている。例えば、韓国料理店ではそうでなくても、日本料理店で店員の態度が悪いのは「許せない」。

「日本のサービスがベストだと思っているからでしょう。弊社でも店舗スタッフへの教育は徹底していますし、それを評価につなげています」

浦江亭では最初に1ヶ月の研修があり、テストに合格したら本採用の候補になる。その2ヶ月後に再度テストがあり、合格すれば本採用となる。合格率は約7割。その後も1年に2回、半年毎に評価テストがあり、それが給与とポジションに連動される。テストの内容は自社のマニュアルに沿った接客マナーやメニューの知識で、一緒に働くメンバーからのコメントも評価の要素となる。

「給与が下がる場合もあります。ベトナム人は高い給与を得ると、安心して手を抜く人もいますからね(笑)」

今後は外食するベトナム人が増えると彼女は語る。経済発展で積極的に仕事をする人が多くなれば、相対的に料理を作る時間が減るからだ。特にだし、みりん、酒などを使う和食は体に良く、健康意識が高まるベトナムで益々好まれるという。

「ベトナム人にはいいものをたくさん食べてもらいたいですね。健康で元気でないと、国が発展していきません」

開店して半年が経つ寿司浦江亭の評判は、「安くて、他の店よりおいしい」という意見が目立つそうだ。当初は300~400人だった1日の来客数は次第に増え、700人を突破した日もあるという。日本から招いた料理長の采配がよく、食材の欠品は出なかったが、彼もこの客数には驚いていたそうだ。

浦江亭は焼肉店より寿司店にシフトしていくとのことで、今後は寿司浦江亭を2号店、3号店と拡大する予定だ。場所の候補は1区や3区など家賃が高めな市内中心部をなるべく避け、低価格化を進めたいという。

「正直、今は儲かっていません(笑)。けれど、『安くて安心』が何よりのポイントであり、これは譲れません。今年から来年にかけて、数店舗~10店舗の出店を計画しています」

 

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