総力特集

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急増が続くベトナム人観光客の訪日アウトバウンド。 2017年の訪日人数は過去最大の30万人が見込まれている。彼らはどんな人々で、日本のどこへ行き、何をしているのか。 日系企業のマーケティングに、彼らの消費動向を活かしてほしい。
 
 

地場の旅行会社Song Han Trading & Tourist(日系大手旅行会社H.I.S.のベトナム現地パートナー )は、ベトナム全土3都市にて訪日事業を大きく展開。近年では自治体と提携して地方の掘り起こしを担うなど、新しい戦略も始めている。

準備期間は約1年 地方都市の魅力を発信

矢野氏がベトナムで訪日事業を立ち上げたのは2012年。ベトナム人の海外旅行者が増え始めた頃で、今もそうだが日本旅行は観光ビザの関係から、全ての旅程が決まったパッケージツアーがメインだ。人気ツアーは5~6日で東京から富士山、京都、大阪等を巡る「ゴールデンルート」。

「当時は日本の良さを出し切れていないツアーが多いと感じました。そこで日本を知る日系旅行会社の知見が生かせると思ったのです」

ゴールデンルートのツアー料金は航空運賃、宿泊、食事、移動費等が含まれておよそ20万円。そのため、旅行者の多くは月給2000USD以上の会社員や自営業主などの富裕層で、中でも多いのは35~40代の女性が夫や家族と参加するパターンという。中国人旅行者はよく電化製品を購入していくが、ベトナム人は健康食品など健康系の買い物が多いそうだ。

事業の開始から5年が経ち、リピーターが増えてきた今では、「新しい場所」や「ゆっくりした旅程」を望む声も出てきた。そこで同社が昨年から注力しているのが、地方自治体と提携した主要都市+地方都市というツアーだ。大都市に到着・宿泊後、鳥取、福島、仙台、鹿児島などに行くツアーで、自治体の協力でチャーター便(直行便)を利用することもある。

「日本から日本人を運んだ便の帰りにベトナム人を乗せる形の『2WAYチャーター便』なので、ツアーの代金を安くできます」

Feel Japan in Vietnam 2017の様子

知名度の低い地方都市にベトナム人を集客できるのか? 同社ではそのために1年をかけて「仕込み」をする。Webサイトやフェイスブックを開設して地域の観光地、食事、名物などをプロモーションし、日越交流イベントや自社主催のイベント「Feel Japan in Vietnam」で日本をPR、ツアーを販売するローカル旅行会社向けのセミナーも行う。

「弊社のツアーブランドは『Kilala Tour Japan』ですが、当地の旅行会社に商品を販売してもらうこともあります。競合相手ですが、市場が伸びている今は協業のほうが大切です」

ベトナムの旅行会社やメディアを自治体に招待する場合もある。旅行会社には訪日旅行の企画立案・販売に役立ててもらい、メディアは各媒体での露出が目的だ。

他にも、自社のベトナム人スタッフを自治体に研修派遣して、帰国後に商品開発や広告宣伝を担当させたり、自治体の観光REP(駐在員事務所)を受託してプロモーションを代行したりと、様々な手を打っている。

こうした準備期間を約1年取り、自治体の魅力を広めた後で、念願のツアー商品を出すのだ。

「観光地、自然、食事などの内容をきちんと説明できれば、地方都市であっても興味を持ってくれます。地方へのツアーは初回は苦労するものの、お客様が帰国後に話題にしてくれるので、2回目からは増客するのが一般的。こうしたビジネスができるのがベトナムの魅力なのです」

多様化する日本へのツアー 「個人旅行の時代」も描く

最近は関東周辺など地域を絞ったツアーもスタートさせ、3泊4日で10万円程度という、手の届く価格で順調に伸びている。大人気の富士山に加えて浅草、秋葉原、新宿などを巡るタイプで、日光江戸村等が入る場合もある。

また、フルーツ狩りなどの体験ツアー、温泉、花が見られる観光地も人気が高い。ベトナム人は花と一緒に写真を撮ることが好きだそうで、実際に桜と紅葉の季節は観光客が増えている。

※2017年は11月までのデータ(出典:JNTO)

「雪と一緒の写真も流行り始めています。12~2月はベトナム人観光客が少ないので、ぜひ集客したいですね。ベトナム人は雪との写真や雪遊びができればよく、寒い場所には泊まりたがりません(笑)」

訪日事業は最初3人で始めたが、現在では全国でスタッフ約150人へと拡大した。訪日ベトナム人観光客は毎年30~40%の増加率だが、同社の売上げはこれ以上に伸びているという。

矢野氏は訪日市場を「将来は何倍もの規模になる」と語り、顧客が旅程をカスタマイズできる「受注ツアー」や、5つ星ホテルや高級レストランなど顧客の細かなリクエストに応じた「VIPツアー」も企画している。

その先に描くのは観光ビザ解禁後の「個人旅行」の時代。その先例となるのがタイで、10年前は訪日団体旅行が活況で、H.I.S.タイからもツアーの団体客が押し寄せたが、2013年のビザ免除からは個人旅行が大幅に増加した。そのため、H.I.S.タイではパッケージツアーよりディズニーリゾートやJRなどのチケット販売が主体となったという。

「今後は他社に先駆けてオンライン販売を強化し、個人旅行を見据えた日本国内のチケット販売、そして日本の国内ツアーにも取り組んでいきます。『ベトナム人がまだ知らない日本』を売っていきたいです」

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